残傷の音「アジア・政治・アート」の未来へ

李 静和 編

高橋悠治のピアノ,北島角子・イトー・ターリのパフォーマンス,呉夏枝の布織物,山城知佳子・高嶺剛・琴仙姫の映像,金城満・宮城明のワーク……2007年,沖縄・佐喜眞美術館で繰り広げられたアートが召喚したのは,植民地主義,戦争,分断によって,暴力にさらされ続けてきたアジアの人々の苦難の記憶であり,死者への応答だった.アジアの共生的未来に向けた,言葉と映像(DVD)による記録.

■編集部からのメッセージ

2007年、沖縄・佐喜真美術館の「沖縄戦の図」(丸木位里、俊)の前で繰り広げられた、多彩な藝術的知性の表現の群れ――高橋悠治のピアノ、北島角子・イトー・ターリのパフォーマンス、呉夏枝の布織物、山城知佳子・高嶺剛・琴仙姫の映像、金城満・宮城明のワーク……。それらが召還したのは、暴力にさらされ続けてきたアジアの人びとの苦難の体験と記憶であり、おびただしい死者たちへの応答でした。本書は、言葉にすることの出来ないそれらの表現に、言葉の表現者たちが応えた、類ないコラボレーションの記録です。(写真多数、3時間のDVD付)

■編者からのメッセージ

李静和(高橋悠治との対談)「死を死なせないこと」から

「音」とは――<生きものの「人間」。日本語では「人」。韓国語では「サラム」。生きている人という。人と気配と音。音が訪れてくるとか、音が表れると言ったとき、それは“人がいなくなる瞬間”だと思うの。いわゆるヒューマニズムというか、人間にまつわる、思考できるあらゆるものが消えるときに、そこに残る澱のようなものが音かもしれない……。>

「追悼」とは――<弔うというか、哀悼するというか、追悼するというか、呼びあうというか、受けとめるというか、あるいは応えるという感じで。それを生きるわれわれの日常といっしょにもっていくかたちとしての追悼の仕方。このあたりの音のことをつかまないかぎりは、どうしても祀ることになってしまう……。>

■アーティスト・プロフィール

呉夏枝(OH Haji) アーティスト.染織,刺などの技法をつかってインスタレーション作品を発表.現在,京都市立芸術大学博士課程在籍.主な展覧会:「Orientity」(04,京都芸術センター),「ZONE――poetic moment――」(05,トーキョーワンダーサイト),「記憶」(VOICE GALLERY psf/w,京都ART MAP’06参加),「織目をすりぬけていくもの――沈黙の時――フィリピンでの旅から」(08,VOICE GALLERY psf/w).

山城知佳子(YAMASHIRO Chikako) ビデオアート,美術家.沖縄県生まれ.主な展覧会:2004年個展「オキナワTOURIST」ビデオアート展開催.05年第1回倉敷現代アートビエンナーレ・西日本で優秀賞を受賞.07年「沖縄文化の軌跡1872-2007」(沖縄県立博物館・美術館).「沖縄・プリズム1872-2008」(東京国立近代美術館).09年「アトミックサンシャインの中へin沖縄」(沖縄県立博物館・美術館,佐喜眞美術館).

金城満(KINJO Mitsuru) アーティスト.1959年,沖縄県生まれ.絵画や版画,写真,映像や音楽を発表.現在,沖縄県立南部工業高等学校で教鞭をとる.当時,教員をしていた沖縄県立開邦高等学校にて佐喜眞美術館との共同プロジェクト「石の声」「迷い鯉」「鉄の記憶」を行う.主な展覧会:Gallery Work IIにて「表面の裏側」(94),画廊沖縄にて「シリーズ・ドモリエ『ことばのカタチ』」(06),「Sweet 400シリーズ」(09).WEB「金城満の仕事」で作品公開中.

宮城明(MIYAGI Akira) アーティスト.1945年,沖縄県生まれ.絵画を中心に,アルミ板,ジーンズ,和紙,漆喰,染色など様々な素材を用いて作品を発表.沖縄県立芸術大学教授.主な展覧会:個展「アイデンティティー」(91,ギャラリーみやぎ),個展「変容」(96,画廊沖縄),個展「表皮一体」(98,前島アートセンター),個展「腐蝕」(02,佐喜眞美術館),「沖縄プリズム1872-2008」(08,東京国立近代美術館),個展「マグマシリーズ」(09,銀座OギャラリーUP・S).

北島角子(KITAJIMA Sumiko) 役者.1931年,沖縄県本部町生まれ.沖縄芝居役者だった父・上間昌成の影響を受け,高校を卒業と同時に役者の道へ.81年文化庁芸術祭演劇部門演技優秀賞.89年沖縄タイムス芸術選賞演劇部門大賞.96年山本安英賞.99年県指定無形文化財保持者認定.06年琉球新報賞.沖縄芝居実験劇場代表.

イトー・ターリ(ITO Tari) アーティスト.セクシュアリティなどをテーマとするパフォーマンス・アートを中心に活動.主なシリーズに「表皮の記憶」(89),「ディスタントスキンシップ」(95),「自画像」(96),「恐れはどこにある」(01),「あなたをわすれない」(06),「ひとつの応答」(08)など.その他,ウィメンズアートネットワーク(WAN)やPA/F SPACEの運営など,アーティストとの交流を深めると共にフェミニストの視点によるプロジェクトに参加.http://itotari.com/

琴仙姫(KUM Soni) アーティスト.東京生まれ.米国のCalifornia Institute of the Artsにて修士課程を修了.映像,インスタレーション,パフォーマンスなどを中心にアメリカ,ブラジル,フィリピン,デンマーク,中国,ドイツ,日本,韓国などで作品を発表.現在,東京芸術大学先端芸術表現専攻博士課程在籍.主な作品:Sheep (02),Flour (03),Subway, I Plant Myself (04),Red Hunting (04),Beast of Me (05),Foreign Sky (05),Shackles (07),Slumber (08).

高橋悠治(TAKAHASHI Yuji) 作曲家・ピアニスト.1938年,東京生まれ.柴田南雄,小倉朗,ヤニス・クセナキスに作曲にまなぶ.1976年から画家富山妙子と映像による物語の共作を続ける.78-85年水牛楽団を組織し市民集会で演奏.91-06年は和楽器と声のための作品多数.著書に『高橋悠治/コレクション1970年代』『音の静寂 静寂の音』(平凡社),『けろけろころろ』(福音館),『きっかけの音楽』(みすず書房)など.

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Still Hear the Wound: Toward an Asia, Politics, and Art to Come